日本学校ソーシャルワーク学会会報17号 特集 教育と福祉の共同―新たなる模索へ

目次

教育と福祉の協働 -スクールソーシャルワークの活動と政策-
大阪府立大学 山野則子

スクールソーシャルワーク予算化のポイントは

2008年スクールソーシャルワークが全国版で導入されて、2年、教育と福祉の協働や連携がどのくらい進んだのでしょうか。大阪では、2005年から大阪府でスクールソーシャルワーク事業をバイザー入れて担当するワーカーたった11人で開始し、2008年度から国の事業としてワーカーのみで22人となりました。その経緯のなか、13市が独自に採用し始めました。人数や市は限られているかもしれませんが、この財政難のなかで、このことの意味は非常に大きいと思っています。また来年度新たに複数人で始める市があります。

そのポイントは、不況による家族の経済的危機、児童虐待、孤立の深刻化など現代的課題を視野に入れて、様々な機関や資源、地域を活用し、アプローチしていく方法であるソーシャルワークが現代の状況改善に期待されているのはいうまでもありません。しかし、それだけではなかなか厳しいです。ミクロとマクロ、つまり実践と政策とを戦略的に、その市にあったやり方でうまく結ぶことが重要ではないかと思います。現場から実践や声がうまく政策につながっていく場合と政策にうまくマクロ的に関与して行く場合と2種類あると思います。今回の企画は、その両方が見えるように考えました。

実践から政策へ、政策から実践へ

去る2月14日に大阪府立大学で「次世代育成施策(スクールソーシャルワーク事業含む)実践から政策へ、政策から実践へ」というシンポジウムを実施しました。案内が1か月くらい前からしかできなかったにも関わらず、180名の参加で会場から活発な意見もあり、大変盛況でした。参加者は、東京、静岡、山口、徳島など全国各地からの参加で、職種も教員、教育委員会、子育て支援課、児童福祉課、スクールソーシャルワーカー、民生委員児童委員、主任児童委員、公民館職員、コミュニティソーシャルワーカー、スクールカウンセラー、研究者、学生、一般の方と様々で、関心の高さがわかりました。

要保護児童対策協議会・虐待対応と次世代育成支援対策部会の連動(箕面市)、「子どもの育ち支援条例」づくりの過程で立案したスクールソーシャルワークとコミュニティーソーシャルワーク(尼崎市)、既存の事業と協働のなかで展開させたスクールソーシャルワーク(大阪府教育委員会)、と幅広く登壇いただきました。箕面市のお話は実践現場のニーズから、要保護児童対策地域協議会を児童虐待だけではなく、不登校や非行問題部門、発達障害を考える部門と策定していき、市内全体に子どもの声なきSOS、明確化できていないSOSを早く発見し、手だてできるようにシステム化を図った報告でした。全国的には、児童虐待で手一杯ななかで、子どもの問題を広く見ていけるように広く拾えるシステムを作ろうとされている苦労が見えました。

尼崎市は、教育委員会ではないところで、スクールソーシャルワーカーをおこうとしている全国初の自治体です。スクールソーシャルワークといっても児童相談所や福祉事務所のように事務所を構えているわけではなく、たった1人で学校に入って行くわけですし、何の権限もありません。導入時の初めに、府下の課長会で話をしたときに、「たった一人で何ができるのか」と厳しい声もいただきました。全くその通りで、尼崎は、そのバックアップになるものとして「子どもの育ち条例(当初、子どもの権利条例)」できちんと位置づけたところが素晴らしい仕組みです。さらに、もう一点の地域との連動を意識しコミュニティソーシャルワーカーも一緒に制度化されました。珍しい政策です。企画立案部門で現場とやりとりをしながら策定されたので、学校現場の直接のニーズではありません。これからが勝負だろうと思われました。

大阪府教育委員会の話は、2005年から国に先駆けて実施してこられて、財政締め付けの厳しい中、予算削減ではなく現状維持し、各市町村にまで展開を広げてこられた、その秘訣をお話下さいました。新しい事業を無理矢理入れるのではなく、今まであるカウンセラー制度やサポートチームにうまくつなぎ、着実に成果を見せ、全国にまで広めて行かれました。体制も年々強化していき、ワーカーが各市町村教育委員会とつながるように、あるいは学校とワーカーがつながるように配慮し、市教育委員会がお客さんではなく、主体的に計画立案し、市がやりがいを持ってできるように、様々なところで仕組みができていくような工夫がありました。単にワーカーがいて成り立っている事業では決して無く、学校が中心にやる気のある市町村が責任を持って事業展開できるよう工夫がされていました。府と市の各役割がうまく機能することの重要性が実感できたのではないでしょうか。

スクールソーシャルワークの面白さ

スクールソーシャルワークは、児童相談所のように広域で特別な事例にのみの対応ではなく、義務養育である学校、市民にとても身近な世界にワーカー参入することで、気軽に相談につながり、大きな問題の予防につながることはもちろん、各市の状況に応じた進み方になる面白さがあります。市によって、その展開はさまざまですが、そのことが会場に伝わったように思います。そのためには、ワーカーの学校アセスメント力と共に市のアセスメントを行い、ミクロからマクロまで視野に入れてどこに何を働きかけて行けばいいのか考える必要があります。もちろんバイザーである研究者の力の必要なところもでもあります。スクールソーシャルワーク研究者も実践家も目の前の実践のみではなく広く政策に結ぶこと、政策から実践に落とし込むことを意識しておくべきであること、ワーカーは社会福祉の専門家として児童福祉を視野に入れ事例のみではなく、政策立案レベルにおける教育と福祉の調和の重要性も伝わってきました。教育委員会や学校現場を主人公にしながら(機関ではと言う意味です)、「三方良し」(発表のなかで府教委中野氏が使用された言葉)の視野にたって戦略的に進めていくべきでしょう。

参加者の声

 

角度は違う三者の取り組み報告と議論でしたが、それぞれの苦労や工夫が見え、会場の空気が徐々に熱く1つになっていくのを感じました。少し参加者の声を紹介します。

*大阪府立大学SSWに関するHP:http://www.human.osakafu-u.ac.jp/ssw/
SSWに関する様々な企画や報告書の案内を載せています。ご覧下さい。上記シンポジウムの報告も7月の学会には出せるようにしたいと思います。

韓国訪問交流記~韓国と日本のネットワーキングを求めて~
福岡市スクールソーシャルワーカー 土井幸治

1.はじめに

文部科学省「スクールソーシャルワーカー活用事業」のスタートと同時にスクールソーシャルワーカー(以下 SSWr )として佐賀県で勤務し始めて、早2年・・・福祉としては新しい領域である学校現場に足を踏み入れ、試行錯誤しつつの2年間はあっという間でした。

そのようななか、今回の韓国における学校福祉士活動の視察は、私のこれまでの学校ソーシャルワーク(以下 SSW )における捉え方を大きく変える刺激的なものとなった。

2.プログラム概要

今回の韓国視察のmissionは、「①韓国における学校福祉士活動の実態を知ること」と、「②韓国とのネットワーキングを築くこと」にあった。行程は3月1~5日までの5日間の視察であった。本視察では、日本学校ソーシャルワーク学会の門田代表理事、鈴木事務局長、大門会員、野中会員(神田町、築城町SSWr)と趙さん(日本社会事業大学大学院:通訳)の6名でお邪魔しました。

プログラム内容としては、韓国スクールソーシャルワーク学会(以下KASSW学会)との情報交換会、韓国学校福祉士協会(以下KASSW協会)の研修会、韓国学校福祉士の配置されている小学校、高等学校の見学及び取り組み紹介、韓国社会福祉士協会の取り組み紹介及び情報交換、社会福祉館の見学など韓国における学校福祉活動の歴史及び活動状況を学ぶことが出来ました。

3. SSW の取り組み

韓国における児童問題は、日本と類似した点も多く不登校、非行、虐待などの事象が生じている背景に貧困問題なども存在していた。

学校見学で印象的であったのは、校内における SSWr の位置づけがしっかりなされており、 SSWr がさまざまな発想でソーシャルワークを展開していたところである。児童生徒の環境として、教育掲示物(喫煙、性問題など)などの先生方が作成される掲示物はもちろんであるが、 SSWr 活動室には地域活動などの情報提供を積極的に行う掲示物や児童生徒らの思いが示された掲示物などもあった。その掲示物一つをとっても学ばせていただくことが多くもあり、深くもあった。特に私の心を踊らせたものは、りんごの木の掲示物である。韓国で「りんご」は「謝る」を意味する言葉で、1年に1度校内では、友達同士で、児童生徒と教員でなどさまざまな間柄でりんごを渡し、謝るという取り組みが行われていた。これは文化(風習)を生かした SSW としての取り組みである。その地域の文化という一つの性質を生かした取り組みに、目からウロコで自分にとって新しい視点を取り入れることができた。

また校内には、活動室や SSWr の事務室、相談室が設けられていた。これらの環境も奇麗に彩られており、児童生徒の居場所、児童生徒と教員の交流の場となっていた。韓国における SSW の取り組みはこのように直接的な支援のみならず、環境をつくったり、人間関係を良好にすることから生み出される新しい効果を感じさせられる印象を受けた。ケースワークはもちろんグループワークにも積極的であった。例えば「仲間づくり」「人間関係づくり」を目的とした遊びプログラム、キャンプ活動などや「自立心の高揚」を目的としたプラグラムを児童生徒らとともにつくりあげる取り組みだった。これらの取り組みは、予防的な観点や児童生徒らの自発性、自立性を刺激する内容であった。これらの SSW の取り組みは、行政だけでなく、企業や募金の収益からの出資もあった。その資金調達も含め、 SSWr がアクションを起こしているところには、 SSW の視野の広さと韓国という社会文化の違いや国民性まで垣間見ることができた。韓国におけるこれらのダイナミックな学校福祉活動は、私の SSW に対する捉え方を大きく揺さぶらせた。

またこれらの実践を支える基盤として、KASSW学会やKASSW協会のバックアップ体制があった。研究者と実践者がタッグを組んだ、若手SSWrの育成システムの必要性も感じた。

4.終えて

韓国訪問を終えて、いろいろお世話をして下さったKASSW学会・協会の皆さまとの温かい触れ合いを思い出すとともに、韓国の取り組みを通して、自己の取り組みの偏りを痛感した。他地域の SSWr との交流のなかで自己の客観化と視野の拡大、実践者としては必須のモチベーションの高揚と多くの効果を得ることができた。今回を機によりいっそう韓国との交流を深めていきたい。

また学んだことを実践で取り入れていく上で、日本の特性を捉えていく必要がある。そのためには同士である実践者でのネットワークの充実と学会との協力体制が喫緊の課題と感じた。今回の視察は、「 SSWr として歩き出した3年目は、日本における学校ソーシャルワークの構築に向けてのネットワーキングを目標にしていきたい。」と次年度の新しい目標を確認できる視察となりました。

日本学校ソーシャルワーク学会 第5回 大阪大会 案内

 

大会テーマ

「学校におけるソーシャルワーク実践と研究の検証~ソーシャルワークの視点から~」

日時

 2010年7月10日(土)・11日(日)

 

場所

 大阪府立大学(堺市・中百舌鳥キャンパス)

   

大会長

山野則子会員(大阪府立大学)

   

大会事務局

関西地区会員、等

 

参加費

事前申込と当日申込の2種化
 *4月下旬に出る「開催案内」をご参照ください。今次大会よりキャンセルなどへの対応が明記されます。

 

プログラム

(詳細については「開催案内」(4月下旬郵送)でご確認ください。)

 
7月10日

大会事前企画・研修会受付9:30
基礎研修・専門研修10:00-12:00
大会受付 12:00
  大会企画シンポジウム 13:00-16:00
「学校におけるソーシャルワーク実践と研究の検証~ソーシャルワークの視点から~」
年次総会16:30ー17:10
懇親会 17:30~

 
7月11日

 自由研究発表分科会 9:30-12:00
  SSWr の集い、等  (昼食時)
 課題別分科会 13:00-15:30
・「貧困・低所得家族に対する制度と SW 実践」・「青年期課題と学校ソーシャルワーク」
・「荒れた中学校での学校ソーシャルワーク実践 の取り組み」
・「 SSW 活用事業の財源確保問題と SSW 活用 の工夫」
        (以上、仮題)

地区(ブロック)活動の報告

「スクールソーシャルワーカー九州沖縄大会 in くまもと」の報告
岩永 靖(九州ルーテル学院大学)

8月29日、スクールソーシャルワーカー九州沖縄大会inくまもとが開催されました。代表理事の門田光司先生をはじめ福岡の方々と飲んでいる時に、「ぜひ九州大会を熊本で」という話をいただきまして、開催の運びとなりました。

熊本でも国庫補助事業化による事業縮小の影響を受けており、来年度に向けてのソーシャルアクションと位置付けて、県内スクールソーシャルワーカーが一丸となって取り組んでまいりました。昨年度までも熊本県精神保健福祉士協会、(社)熊本県社会福祉士会の共催で会員研修会を開催してまいりましたが、今年度はそのような意味も含め広く教育現場へ声をかけ、「教育と福祉のコラボレーション~子どもと家庭、そして学校のエンパワメント~」をテーマに取り組みました。主催は、日本学校ソーシャルワーク学会、熊本県精神保健福祉士協会、(社)熊本県社会福祉士会の3団体です。参加者は159名で、内約60名は教育関係者でした。また九州圏外から参加された方もおられました。

まず崇城大学総合教育教授で、前熊本県教育長の柿塚純男氏から「教育現場の課題とスクールソーシャルワーカーに期待するもの」と題しまして基調講演をいただきました。熊本でのスクールソーシャルワーカー導入の流れや教育現場の課題、そして何よりもスクールソーシャルワーカーに対する思いをとにかく熱く語られました。前教育長からのスクールソーシャルワーカーへの熱い思いは心強い大きな力となりました。

その後行政報告として熊本県教育庁義務教育課よりなされ、午後は福岡市教育委員会スクールソーシャルワーカーの奥村賢一氏と佐世保市青少年教育センタースクールソーシャルワーカー宮崎かおり氏の実践報告でした。奥村氏からは拠点校巡回型のメリットと福岡市こども総合相談センターえがお館で児童相談所との連携など、教育事務所の派遣型で動いている熊本としては非常に興味深い報告でした。また宮崎氏からは青少年教育センター配属でそこで実施されている適応指導教室での取り組みからも多くのことを学ぶことができました。

最後に「子どもたちの最善の利益のために~それぞれの立場からの提言~」と題しシンポジウムが開かれ代表理事の門田光司先生のコーディネートのもとで、マスコミの立場から熊本日日新聞社編集委員室長の春木進氏、学校の立場から福岡市立野芥小学校校長満田文恵氏、スクールソーシャルワーカーの立場から熊本県教育委員会スクールソーシャルワーカーの岩井佑美氏がシンポジストとして登壇されました。春木氏からは教育問題、また精神医療を取材してきた経験から学校現場に精神医療で行われているチーム対応の必要性を感じ、その専門職としてスクールソーシャルワーカーの導入を訴えてきたこと、また満田氏からは実際の学校現場にスクールソーシャルワーカーを迎え入れたことによって、教職員の問題の捉え方が変わっていったこと、現象だけでなく背景に目を向けることができるようになったこと、そして岩井氏からは熊本での取り組みとそのなかで見えてきた課題について発表がなされました。

その後、フロアとの意見交換で教育現場から多くの声があがりました。スクールソーシャルワーカーの活動で教育現場が非常に救われていること、そして時間数が足りないことやスクールソーシャルワーカーの身分保障が十分でないことを問題として提起され、ぜひ教育現場にスクールソーシャルワーカーの定着を求める声が相次ぎました。また不登校の親の会の方からも体験を通した発言があり、それぞれの立場からスクールソーシャルワーカーに対する大きな期待が飛び交うシンポジウムとなりました。その声の一つ一つが今後の実践に向けたスクールソーシャルワーカー一人一人の大きな力にもなりました。

時は衆議院総選挙前日であることもあり、まさにソーシャルアクションの機運が盛り上がり、来年度に向けて大きな一歩を踏み出すことができた大会になったと思います。

門田先生を始め大会を支えてくださった多くの方々に心から感謝申し上げます。

2009年度日本学校ソーシャルワーク学会北海道大会の報告
藤原里佐(北星学園大学短期大学部)

2009年12月19日(土)、北海道社会福祉士会道央地区支部との共催による日本学校ソーシャルワーク学会北海道大会が北星学園大学を会場に行われました。北海道では、SSWの必要性が高まる一方、北海道全体に活用事業を発展させていくことが様々な面で厳しい状況が続いています。しかし、そのような現状であるからこそ、地域のニーズを確認し、 SSW のありかたを探っていきたいという思いを強くし、本大会の開催に至りました。道内各地より、教育、医療、保健、福祉等々につながる方々にお集まりいただき、 SSW 実践の方向性を多角的に捉える、実りある研究会となりました。参加者は55名でした。

1 基調講演
福島大学教授 日本学校ソーシャルワーク学会事務局長鈴木庸裕
「家庭・学校・地域をつなぐスクールソーシャルワーカー」

スクールソーシャルワーカーの役割について、鈴木氏の見方によると、これはまだ、確立しているものではなく、個人の力量や SSWr を活用する条件によって一定でありませんが、おおよそ次のように整理できると説明されました。①教師と子ども、子どもと親の関係性に働きかける、②子どもと保護者のストレングスを引き出す、③教師と学校関係者のチームによる子どもへのかかわり、④学内外の人材のコーディネート。

以上の4点に集約されるなかで、 SSWr は、講演の標題にもあるように学校を基盤とし、また学校教育学をしっかり学び身につけることが期待されるということが強調され印象的でした。学校にいる子どもをめぐり、福祉の立場からアプローチをすることがSSWrの役割というように解釈されがちですが、子どもの成長や自立をベースに子ども理解を深め、具体的な援助をしていくことの重要性が指摘されました。子どもに対する深い洞察と、子どものもつ潜在的な力を発見することによって、家族もそれを認め動いていくケースなどが紹介され、鈴木氏の事例からも、学校において子ども中心につながることの意味を考えることができました。

 
2 シンポジウウム
 報告1「北海道におけるスクールソーシャルワークを発展させていくために」

北星学園大学准教授の久能由弥氏からは、広域な北海道におけるスクールソーシャルワーク事業の課題と展望を話していただきました。久能氏は、北海道・札幌のスーパーヴァイザーとして、個別の支援はもちろん、啓発的な活動や行政とのパイプ役を担っている中で、地域的な問題、学校の子ども観と特性などを指摘されました。また、それを解消するために、 SSWr に何が必要かという具体的な提言もされ、今日の北海道の事情も知ることができました。

 
報告2「高校教諭の立場からの現状報告」

北海道余市高校教諭の大地豪氏からは、高校の現役教師として、また生徒指導部長として、高校における現状と SSWr の「可能性」を忌憚なく話していただきました。子どもたちが成育歴や学校生活経験のなかで、何につまずいているのか。それが高校という、彼等とっての教育の最終段階において、どのような形で表現され、また大人はそれを受け止めていくべきなのか、示唆に富んだお話でした。

二つの報告を受けて、コーディネーターの法政大学教授岩田美香氏からは、 SSWr が社会資源を掘り起こしていくような、いわばパイオニア的な役割を負っていること、さらにコメンテーターの鈴木氏は、その地域の力を引き出し、行政を動かしていくような先駆性についても触れられました。予算削減や人材育成の課題など、検討すべきことは多々あり、会場からも活発な質疑や意見が出され、参加者がエンパワーメントされる大会になりました。

   

東海地区 SSW 研修会の報告
「学校の抱える課題とスクールソーシャルワーカー」(講演会)&「専門研修」

平成22年1月16日(土)、静岡県教育委員会、静岡市教育委員会、静岡県社会福祉士会、静岡県精神保健福祉協会の後援のもと、静岡総合福祉会館にて、本学会主催東海地区スクールソーシャルワーク研修会を開催しました。

研修会は、「学校の抱える課題とスクールソーシャルワーカー」をテーマとして、第1部は、山本敏郎理事に、「子どもの<生きづらさ>と向き合う関係者の協働」についてご講話いただきました。山本理事は「生きづらさ」として貧困の背景や克服の課題等を挙げ、学校が求める「生徒の役割」を果たせない生徒に対して、学校関係者と共に理解を深める役割をスクールソーシャルワーカーが担うことの重要性についてお話しされました。

第2部は山本敏郎理事がコーディネーターとなって、野田修氏(静岡県教育委員会指導主事)、川口正義会員(静岡市 SSWr )、野田正人理事の3名のパネラーによる、「スクールソーシャルワーカーの現状と今後の展望」についてパネルディスカッションが行われました。会場からは SSWr の活動への質問や、県内の SSWr 配置への要望が多数寄せられました。

午前の部は、北は北海道、南は九州からと他都道府県からの方も少なくなく、予想をはるかに越えて100名以上の参加者があり、その様子は地元紙にも掲載されました。ちなみに午後の部でご一緒した他県からの方々とは、お互いに自身の悩みや実践などについて意見交換をし、交流を深めることができました。

研修会開催にあたっては、東西に長い静岡県でありながら、県内の会員全員が運営メンバーとして静岡市に集合し、会場押さえから宣伝、当日運営まで想定できる全ての準備を視野に入れて、佐々木監事を交えた2回の打ち合わせ会をもち役割分担しました。皆「当日どれくらい集まってくれるだろうか」と期待と不安を抱きつつも、メールや電話で密に連絡を取り合い、それぞれの役割を遂行しました。そういった意味では、途中参画で準備を手伝ってくれた静岡福祉大学の学生ボランティアも含めた、運営メンバー全員のチームワークがあってこそ実現した研修会だと言えます。

今回、静岡においても SSW が教育機関その他子どもに関する機関等に浸透していけることを実感しました。

今後も SSW 発展に向けて静岡のメンバー、関係機関ともに力を合わせて活動していきたいと思います。参加者の皆さま、運営メンバーの皆さま、ありがとうござました。

(文責・望月郁澄・静岡県富士市西部地域包括支援センター・社会福祉士)

午後の専門研修では「アセスメントを踏まえた SSWr の活動」と題して、野田理事、佐々木監事による講義と演習が行われた。はじめにソーシャルワークの視点の再確認の講義を受けた上で、ある事例が実際の学校での相談場面のように少しずつ示され、その時々で考えるべきこと、情報収集の方法や枠組みについてグループで意見を出し合った。職種も活動の拠点も様々なメンバーだったので、意見を出し合ううちに、その人なりの考え方の傾向が見えてくる。私自身は、学校の先生の思いを汲み取ることが足りないという自分の弱点を改めて思い知った。自己覚知が重要であると肝に銘じてはいるものの、現職場でSVの体制はなく、まずはこうした専門研修に自ら積極的に参加して実践力を高めていく必要性を実感した。

また、講義の中では、“アセスメントに終わりはない”、“ SSWr には、聴く力に加えて、わかりやすく簡潔に伝える力も重要である”という両講師の言葉が特に胸に響いた。最後に、コンプライアンスとして児童虐待防止法をはじめとする法律をよく知り、遵守する必要があることを学び、研修は終了となった。

中身の濃い研修内容、多様な参加者との交流と大変充実した機会をいただいた。

静岡における SSW の活動は、ようやく緒についたばかりである。今後 SSW が県内にも浸透し、より充実した活動を行っていくことができるよう、1月16日を出発点に関係者の連携をさらに深めていきたい。

(文責・平川悦子・浜松市教育委員会スクールソーシャルワーカー)

アンテナ・北から南から
鹿児島県の学校ソーシャルワーク事情(近況報告)
岩井 浩英(鹿児島国際大学)

文部科学省の「スクールソーシャルワーカー活用事業」立ち上げを受け、鹿児島県においても、平成20年度からの事業開始となりました。初(平成20)年度の契約市町は、へき地や離島を含め12ヵ所(鹿児島市、指宿市、南九州市、日置市、いちき串木野市、さつま町、出水市、長島町、加治木町、蒲生町、志布志市、喜界町)で、任用されたSSWrは総計36人でした。内実として、有資格SWrの採否((社会福祉士/精神保健福祉士)有資格率:約1/3)はもとより、配置人数(1~6名)や配置場所(教育委員会、拠点校、適応指導教室、他)、対象学校(小学校のみ、小・中学校、全校、他)、活動形態(常駐、派遣(巡回)、他)は様々でした。

今年度、県が3/2負担を全額負うことを前提に、13市町との委託契約を交わしています。2町(長島町、喜界町)が昨年度限りで撤退し、その代わりに、3市(阿久根市、伊佐市、垂水市)が新規に参入しました。なお、昨年度から継続実施となった10市町の中には、 SSWr の任用人数や就業条件の見直し(削減)を図った所や単年度事業として( SSWr )再雇用の扱いとした所等が見受けられます。

上記の本県情勢を睨みつつ、筆者は、本務先の同僚らとともに、2008年7月、県内 SSW 事業の実施に対する後方支援型団体「かごしま学校ソーシャルワークを進める会(以下、進める会)」を立ち上げました(現在、会員数約60名)。これは、地元でのSSW推進のための基盤づくりに向けて、啓発的活動の取り組みを続けること、県・市町教育委員会との渉外や関係機関等ネットワークの構築を進めること、等々といった方針のもと、現任 SSWr に対するスーパービジョン等提供や SSW 現場で活用できるツール等開発、話題学習等の機会提供を進めています。そして、持論ながら、これらの活動実績こそ、正しく、 SSW それ自体を成していくものと感じています。

昨(2009)年12月、進める会は、鹿児島県精神保健福祉士協会との共催により、初の特別企画である( SSW )大会を開催しました。地元に対する SSW の推進アピール・事業バックアップ等を目的とし、具体的には、本県の SSW 事業実施をめぐり、 SSW とは何か、本県事業の現状と(今後)方向性はどうか、受託市町にてスクールソーシャルワーカーはいかに活用されているか、等々のテーマについて、多くの職種の方々とともに学び考えることにしました。

当日、共催団体の会員をはじめ、受託市町関係者(事業担当者、現任 SSWr 、他)や専門機関関係者(児童相談所、保健所、県警察少年課、他)、大学関係者等、多方面からの参加を得ることができ、県教育庁担当者による行政報告、および、市教育委員会等担当者や活用実績校長、現任 SSWr をお招きしてのシンポジウムでは、多くの実践的な話題提供とともに、参加者からの積極的な発言・提言も出され、初企画として概ね好評であったことは間違いありません。また、参加者からの声として、「 SSWr 職として確立しているのか?」との疑問や「 SSWr 体験談や問題別対応談が聞きたい!」との要望が出され、本会運営や大会企画等の当面課題を確認することができました。

最後に、全国に一斉導入された SSWr 活用事業を継続・発展させるためには、各地実践等に対する効果検証(エビデンス)が必要となることはいうまでもありません。本県においても、財政・運営上のハードルが高く、どの市町も来年度以降の見通しは決して明るくありません。これらの(当面)問題点の改善・解消(解決)を足がかりとしつつ、 SSWr 活用メリット等を生かし、今後の大いなる継続・推進の努力が求められているのです。